玄米にはびっくり炊きといって、手間のかからない便利な炊き方があることをご存知でしょうか。
しかし、びっくり炊きをすると玄米のアブシジン酸の毒が抜けないと、危険視する見方が現在ネット上を席巻しています。
果たしてアブシジン酸の毒とは何なのでしょう。
また、びっくり炊きだと、どうして毒が抜けないのでしょうか。
今回は玄米のびっくり炊きとアブシジン酸の毒との関係についてお話いたします。
玄米のびっくり炊きって何?
玄米は、もみ殻だけを取り除いた米のため、白米に比べて水分の吸収が悪く、炊きあがりが硬くてポソポソしています。
そのため、炊くときはできるだけたっぷりと吸水させることが、柔らかくおいしく炊き上げるコツです。
米を洗ったら、長時間水に浸けておきましょう。
推奨される浸水時間は、6時間とも8時間とも12時間ともいわれ、中には17時間、1日、2~3日など、気が遠くなるほど長い時間浸けておく方もいます。
なぜそんなに長時間水に浸けておくのでしょうか。
実は吸水させることのほかにもう一つ理由があるのですが、それに関しては後程述べるとして、長時間の浸水が面倒という方に朗報なのが、「びっくり炊き」です。
米どころ秋田県に昔から伝わる「びっくり炊き」は、浸水なしでもおいしく炊ける便利な炊き方です。
うどんをゆでている最中に冷たい水を一杯入れるのを「びっくり水」と呼びますが、玄米のびっくり炊きも、炊飯途中で冷たい水を一杯入れることからこう呼ばれています。
びっくり水を入れることで、言葉通り米がびっくりして、その刺激で水分をより吸収するといわれています。
そのため、びっくり炊きで炊けた玄米ご飯はふっくらと膨らみ、通常の玄米ご飯よりカサが1.5倍ほど増えるといいます。
柔らかくおいしく炊けて、しかも面倒な浸水がいらないのですから、一石二鳥の炊き方ですよね。
ところがびっくり炊きをすると、玄米のアブシジン酸が抜けないから危険だという説があるのです。
さて、アブシジン酸とはいったい何なのでしょうか。
玄米のアブシジン酸って何?どんな影響があるの?
アブシジン酸とは、玄米をはじめとした穀類の胚芽部分に多く見られる植物性のホルモンです。
大切な種子を、乾燥や鳥に食べられてしまうといった過酷な自然環境から守るために、発芽抑制因子として分泌されています。
ヒトの体内に蓄積されると、細胞のミトコンドリアの働きを阻害するといわれており、エネルギー産出の低下から、病気にかかりやすくなったり疲れやすくなったりするといいます。
そんな危険な性質をもった成分が玄米に含まれているなんて驚きですよね。
しかし、アブシジン酸は次の二つの方法で無毒化できます。
①乾煎り
②発芽させる
アブシジン酸は熱に弱いため、高温で加熱すると無毒化できるといいます。
玄米を高温で熱したフライパンで乾煎りしてから炊くといいようです。
焦げつかせない程度にじっくり煎ると、香ばしい香りが漂ってきます。
その後、普通に炊飯すれば、アブシジン酸の毒のない玄米ご飯が炊きあがります。
しかし、この方法ですと、ポソポソと硬いため正直おいしくありません。
そのため、おすすめは②の発芽させる方法です。
発芽抑制因子のアブシジン酸は、発芽さえしてしまえば用済みですから無毒化されるというわけです。
発芽させるには最低でも17時間以上、通常1日~3日も米を水に浸けておかなくてはなりません。
浸水なしでOKなびっくり炊きなら到底発芽には至りませんから、アブシジン酸の毒が無毒化されない心配があるのです。
アブシジン酸が無毒化された発芽玄米のすごい健康パワー
アブシジン酸を無毒化する有効な手段は、長時間浸水させて発芽させることです。
玄米を洗ったら水に浸し、そのまま放置します。
長時間浸水させると臭いがし、衛生が保てないので水は8時間ごとに取り替えます。
夏場は腐らせないよう、冷蔵庫に入れておくのもいいでしょう。
浸水させた玄米を観察していると、少しずつ変化するのがわかります。
24時間以上たつと胚芽部分がぷっくりし、今にも芽が出そうになるか、すでに小さく発芽しています。
こうなればアブシジン酸の毒は無毒化され、さらに栄養価もアップしているのです。
特にギャバは3倍以上増えるそうですよ。
近年、急速に注目を浴びている栄養素ギャバは、リラックス効果や脳をすっきり活動させる効果があるといわれ、ストレス社会の救世主のようにいわれている成分です。
玄米を発芽させれば、そのギャバの量が増えるのですからうれしいですよね。
もちろん水分もたっぷり吸収されていますから、ふっくら柔らかい玄米に炊きあがります。
消化も良くなるので、硬い米が苦手だった方もおいしくいただけるようになります。
長時間浸水して発芽させた玄米には、こうした様々なメリットがあるのです。
では、びっくり炊きで、やってはいけない危険な炊き方はあるのでしょうか。
びっくり炊きはアブシジン酸が無毒化されないから危険なの?
玄米のアブシジン酸に関しては、毒だから危険という説が流布されています。
しかし、そもそも毒性のあるものを日本の厚労省が食用として許可するのか、という大いなる疑問があります。
百歩譲って毒性が仮にあっとしても、人体にとって明らかに害毒を及ぼすのなら、とっくの昔に厚労省が注意喚起なり通達を出すなりしていたはずです。
玄米において、そういった公の指示は今まで一切ありません。
したがって、仮に毒性があったとしても、それは非常に微量で、ヒトにとって有害とはならないといっていいのではないでしょうか。
種子を食べようとする鳥にとって有害であったとしても、鳥は穀類を生で食べます。
しかし、私たちは炊いて食べますから、必ず加熱しているのです。
発芽させようがさせまいが、炊いて食べている限り、今すぐ体調不良になるほどの有害性があるとは思えません。
それでも気になるのなら、玄米を浸水させていけばいいのです。
何日も浸けておかずとも、一晩程浸けておけば、水分をたっぷり含んだおいしい玄米ご飯になります。
昔から玄米は、前日夜から浸けておいたものを翌朝炊き、夕食用には朝食後の片づけ時から浸けて夕方炊く、というサイクルができていました。
水に浸けておくだけなので、慣れてしまえばこれはただのルーチンワークに過ぎず、特に面倒なこともありません。
毎日の習慣にしてしまいましょう。
それでもうっかり忘れてしまったときの救世主として、びっくり炊きを利用してみてはいかがでしょうか。
時間がないときの奥の手!びっくり炊きの炊き方
普段は浸水させて玄米を炊いている方。
アブシジン酸を必要以上に気にかけないのであれば、たまにはびっくり炊きに挑戦されてみてはいかがでしょうか。
炊き方をご紹介いたします。
①洗米
洗い方は、浸水させる方法と基本的には同じです。
ごみや不純物をきれいに取り除いてください。
余裕があれば拝み洗いで外皮に傷をつけ、水の吸収率を高めましょう。
②炊飯
土鍋やホーロー製の鍋などで炊きます。
水の量は玄米の1.2~1.5倍入れましょう。
蓋をして、まずは強火にかけます。
吹きこぼれそうになったら弱火にしましょう。
20分ほどで水分がなくなり、香ばしい香りがしてきますよ。
蓋を開けて水分がなくなっていたら、びっくり水を入れます。
このときの水の量は、玄米の0.8~1.2倍ほどです。
全体を混ぜてから再び蓋をして煮ます。
15分ほどたったら火を止め、そのまま蒸らしましょう。
蒸らし時間は10分程度です。
蓋を開けて全体を大きく混ぜたら、できあがりです。
いつもの炊き方より色がやや白く、ボリューム感があります。
柔らかいけれどベチャベチャではなく、しっかりと歯ごたえのある炊きあがりです。
時間がないときの救世主!びっくり炊きの玄米ご飯お助けメニュー
玄米をびっくり炊きすれば、時間がないときの食事の準備が大いに助かります。
アブシジン酸を気にかけないなら、玄米ご飯カレーはいかがでしょうか。
玄米をさっと洗い、上記の方法でびっくり炊きします。
その間にカレーを作りましょう。
肉と野菜を刻んで炒め、水を加えて煮込み、カレールーを落としてできあがりです。
そのころに炊きあがった玄米ご飯と合わせれば、文句なしにおいしいカレーライスの完成です。
あるいは、玄米を炊き込みご飯にすれば、ほかのおかずが要らずで、時短になります。
コツは、びっくり水を調味液にすることです。
玄米と具材、分量の水を入れて炊飯し、途中で調味液を入れればOKです。
炊飯中に具たくさんの汁物を作れば、簡単でいながら栄養たっぷりな献立になりますよ。
アブシジン酸の毒にかかわらず玄米は浸水を!
玄米のアブシジン酸に関しては、あまり神経質にならず、毎日の浸水をルーチンワークにしてしまったほうが楽です。
そして、時々はびっくり炊きで手をぬいてみるのもいいかもしれませんね。
いろいろなバリエーションを用意して、毎日の玄米ライフをどうぞお楽しみください。