仕上げの醤油は薄口醤油で締めてみよう、その使いかたとは?

名前は薄口でも味は辛い、でおなじみの薄口醤油。

「関西でよく使われて、塩分が濃い目」というのはよく知られていますが、使ったことがない人も多いことでしょう。

発祥の由来や製法など、薄口醤油をもっと知れば使ってみたくなりますよ。

濃口醤油との使い分けで、レシピの幅を増やしていきましょう。

薄口醤油とはどんな醤油?

JASは醤油を5つに分類しています。

(農林水産省が認定する規格を「JAS」と言います。)

濃口醤油の他、薄口醤油もそのひとつです。

裏面の食品表示の名称欄に「うすくちしょうゆ」とあります。

JASマークがついた醤油にこの表示があれば、薄口醤油で間違いありません。

「淡口」と表記して、うすくちと読むものも同じく薄口醤油を指します。

日本の醤油生産量の約80%が濃口醤油であるのに対し、薄口醤油は約12%です。

名前はよく知られていますが、全国シェアはわずかと言えます。

次に、薄口醤油の作り方です。

作り方は濃口醤油と同じ、大豆1対小麦1のほぼ同量でもろみを作ります。

ただし薄口醤油は、もろみに少量の米、または甘酒を入れます。

なぜかというと、薄口醤油を淡い色に抑えるために、醸造期間を濃口醤油よりも短くするからです。

濃口醤油は、醸造中に微生物が熟成を促して、醤油らしい濃い色や味が作られます。

しかし薄口醤油は濃口醤油よりも色や香りが淡くなくてはいけません。

そこで醸造期間を短くして、褐色化や香りを抑えているのです。

関西で醤油として薄口が使われる理由

なぜ、色や香りが淡い薄口醤油は誕生したのでしょうか?

薄口醤油は、江戸時代初期に現兵庫県たつの市ではじめて作られました。

関西地方は、硬度の低い軟水地域で、この水質を醤油作りに活かしたのです。

関東と関西では水質が大きく異なり、硬度の指標となるミネラル量は関東に比べて少ないのです。

日本の水質は全般的には軟水です。

しかし、関東の水質の硬度は、比較的高めといえます。

これは関東ローム層の火山灰質の土壌からミネラルが溶けだすからです。

関西出身の人が「東京のうどんは塩っ辛くておつゆが最後まで飲み干せない!」と感じるというエピソードはよく知られています。

それは、関東・関西それぞれでうどんに使う醤油が違うからです。

関西では、軟水で植物性の旨味を持つ昆布の出汁をとって、薄口醤油でおつゆの味を控えめにつけます。

関東では逆に、硬水で動物性の鰹節で出汁をとって、濃口醤油でキリっと味を締めます。

うどんに限らず、関西地方は繊細でまるみのある味の料理が多いです。

それらはすべて水質によるもので、醤油もまた、同じです。

関西のたつの地方で生まれた醤油は、地域の料理に活かすために作られたのです。

色や香りが淡い薄口醤油は京都から広まった

次に、なぜ薄口醤油の色や香りは淡くないといけないのでしょうか?

それは、たつの地方で生まれた薄口醤油が、京都で重宝された理由まで遡ります。

京都では、地理的に海産物が手に入りにくく、野菜中心の料理が一般的でした。

野菜の素朴な味を活かしつつ、都の中心であったため華やかな料理であることが求められたのです。

そのころ、近辺のたつの地方の薄口醤油が京都に流通しつつありました。

その特長が評判になっていたのです。

「醤油の色が淡く、野菜の色どりを鮮やかに際立たせる」

「醤油の香りがほのかで上品、京都のイメージに合っている」

「醤油の塩気がしっかりとしているので、長時間煮込まなくて良く、煮崩れない」

と、京都の料理人の間で人気になりました。

そして京野菜の栽培や全国から腕の良い料理人が集まって、明治時代に「京料理」というジャンルが確立しました。

薄口醤油もまた、京料理の発展に欠かせない要因のひとつです。

今に至り、先に述べた水質と、野菜食中心の山間部が多い関西で薄口醤油は使われているのです。

関西の方は、郷土の味に誇りを持っているため、現在も薄口醤油は欠かせないのでしょうね。

薄口と濃口、醤油の使い分け

このように、関西の味をつくり出す薄口醤油ですが、実は関西の家庭には、薄口・濃口、両方の醤油を置いている家庭も多くあります。

どのように使い分けをするのでしょうか?

それは、醤油味にするか、出汁の味を活かすために使うか、によって違います。

濃口醤油を使うのは、鶏のから揚げや刺身、魚の煮つけなど、食材を醤油味にするときです。

肉や魚がメインの料理に濃口醤油は使われます。

特に、青魚の煮付けに使われています。

一方で、薄口醤油は2種類の目的があります。

ひとつめは、食材の色を鮮やかに見せたいときです。

野菜の炊き合わせは、代表的な薄口醤油を使う料理です。

人参や絹さやは色鮮やかに、里芋やレンコンは白く光るような見た目に仕上がります。

ふたつめは、昆布出汁の味をメインに、食材やおつゆの味の調和をとりたいときです。

関西うどんは、具材や麺、おつゆ、全体の味のバランスがとれています。

バランスをとるために、昆布出汁を使って、薄口醤油で風味だけをつけておつゆを作るのです。

薄口醤油を使うときは、野菜を鮮やかにしたい煮物や、うどんなど、おつゆまで飲み干すものを作るときなのです。

また、薄口醤油が誕生した兵庫県たつの市は、播磨平野に位置しますが、小麦や大豆、塩が名産物です。

郷土の味を余すところなく表現したのが、関西うどんなのですね。

薄口と濃口、醤油の違い

薄口醤油と濃口醤油との違いは、

・塩分が濃いこと

・甘酒を入れること

です。

塩分が濃いのは、理由があります。

最初に薄口醤油は「醸造期間が短い」とお伝えしました。

「醸造期間が短い」ということは、微生物の作用が短く、醤油の旨味や品質の安定を十分に確保できません。

そこで、醸造過程で塩を多くして変質を防いでいるのです。

甘酒を入れるのにも、もちろん理由があります。

旨味を出すために、甘酒(または米)を入れているのです。

微生物が作用しないと、醤油らしいコクや旨味が生まれません。

甘酒はすでに発酵が完成していて、醤油としての旨味を補うのに適しています。

あくまで、甘酒は醤油としての旨味を出すために入れています。

しかし、メーカーによっては独自性を出すために甘酒の使い方に工夫をしているところもあります。

甘味を効かせて、色・香り・さらに甘味の3つを際立たせる面白い薄口醤油もありますよ。

濃口醤油で薄口醤油の代用をするときの注意点

以上から、薄口・濃口、醤油の違いはほぼ塩分の濃さだけです。

互いの醤油を代用することはできますが、それぞれの醤油に注意点があります。

・濃口醤油がなく、薄口醤油で代用する場合

味見をこまめにしましょう。

色が薄いので、見た目につられて量を足しすぎると、塩辛くなります。

濃口醤油に比べて、旨味は控えめです。

甘辛い肉じゃがを作りたい、というときは、やはり濃口醤油の方が良いです。

また薄口醤油は、濃口醤油に比べて賞味期限が6ヶ月ほど短く設定されています。

醸造期間が短いためです。

開封後1ヶ月で使い切るサイズを買いましょう。

・薄口醤油がなく、濃口醤油で代用する場合

塩分を足して調整できます。

しかし、煮物や茶わん蒸しなど食材の色合いを活かしたいときは、薄口醤油を使ったほうが良いです。

白身魚を煮るときも、薄口醤油を使うことをおすすめします。

濃口醤油で長めに煮てしっかりと味を付けるよりも、最後に風味付けで使うだけで、白い色を美しく、身を柔らかく仕上げてくれます。

関西の薄口醤油が自宅の定番の味になる?

薄口醤油は、地域の特性を活かすために、濃口醤油から派生して作られました。

おつゆまで飲み切る関西うどんは、優しい味なので、関西以外の多くの人も一度食べたらハマってしまいます。

また、一度使ったことがある人は、仕上がりの見た目に満足することでしょう。

試しに小さなサイズの薄口醤油から使ってみませんか?