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「肉を熟成する」ということ…肉の旨みとプロテアーゼの秘密

      2017/08/29

「肉を熟成する」ということ…肉の旨みとプロテアーゼの秘密

ギュッと詰まったいっぱいの旨みが、噛みしめるごとに口の中にじわりと広がっていくのを感じながらごくんと飲み込む…。
口にした瞬間から、喉ごしまで美味しい肉料理が大好き! 
という方は多いはず。

今、肉料理マニアの間では肉の美味しさが最大限に引き出された、「熟成肉」が空前の大ブーム。

今回は熟成肉と、肉の旨みを引き出す秘密である、「プロテアーゼ」という酵素について詳しく紹介していきたいと思います。

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お肉がもっと美味しくなる?空前の熟成肉ブーム

「肉の熟成」と聞いて、耳なじみのある方はどの程度いらっしゃるでしょうか。

鶏肉、豚肉、牛肉、その他さまざまな獣肉…。
そもそも、食肉という食材は非常にデリケートなものであり、加熱の加減の甘さや、誤った保存方法により、菌の繁殖や食中毒の発生は容易に起こってしまいます。
そういったことから、食肉については衛生面の観点から、安全性の確保に関して日夜数多くの議論が交わされ続けています。

しかし、食肉は加工によって旨みや食感を最大限に引き出すことのできる可能性を多くはらんでいる食材でもあり、肉の熟成は、食肉の持つそういったポテンシャルを長期保存によって発掘するものです。

従って、肉の熟成という技術は、衛生面の安全の確保と食肉の可能性の開拓の境界で揺れ動く、非常に興味深い加工技術であると言えるでしょう。

チーズなどの発酵食品や酒類の醸造然り、長期保存や熟成による旨み成分などの増幅は過去から活用されてきた技術であり、衛生と食品の改善や改良は表裏一体の概念です。
そして、近年はそれを食肉で挑戦してみることが1つのブームとして興っている時代なのです。

次の項目からは肉の熟成の多様性や、肉の旨みの増幅に関与する「プロテアーゼ」という酵素について詳しく紐解いていきます。

プロテアーゼが秘訣!身近にある熟成肉について

熟成の技術を用いた食肉加工品として一般的に普及しているものといえば、ハムやソーセージ、サラミなどが挙げられます。
農林水産省によると、ハムやソーセージの熟成の定義は「原料肉を一定期間塩漬することにより、原料肉中の色素を固定し、特有の風味を十分醸成させること」とされています。
この定義に記されている、「特有の風味を十分醸成させること」とは、適切な保存方法で食肉を熟成保存し、肉に含まれるプロテアーゼという酵素によって旨みを増幅させることを指します。

その他、熟成による食肉加工食品の例としてはイタリアの塩漬け豚、パンチェッタが挙げられます。
パンチェッタは、豚バラ肉のブロックを塩漬けにして、風通しの良い場所で2週間ほど乾燥させたものであり、これも熟成によって豚肉中に含まれるプロテアーゼを活性化させ、旨みを引き出した食品です。
調理の手順が複雑でなく、簡単に豚肉の深い旨みを引き出すことができるパンチェッタはパスタやリゾットなど料理への応用範囲がとても広いことから、イタリアの家庭ではよく作られ、重宝される食材として知られています。

熟成加工の肝となるプロテアーゼは、ハム、ソーセージの原料となる豚肉の他、牛肉や鶏肉、その他の獣肉中にも含まれる酵素であるため、さまざまな食肉に対して熟成による加工を適用することができます。

しかし、上記のようなハムやソーセージ、豚肉の熟成加工は私たちの食生活に馴染みの深いものではありますが、牛肉やその他獣肉類の熟成は加工方法が複雑で、且つ必要とされる設備の規模は大きい為、牛肉の熟成加工やその調理は飲食店での提供が主流となっています。

加工技術が複雑で、且つ隠されたポテンシャルが高い牛肉の熟成加工は奥深く、日々交わされている議論や、挙げられる話題の多くは牛肉の熟成に焦点を当てたものがほとんどです。
食肉の熟成加工を語る上で、牛肉の熟成は決して避けて通れません。

次は、牛肉の熟成加工に着目し、その幅広さについて説明していきたいと思います。

牛肉がルーツ!熟成肉文化の源泉

そもそも、熟成肉のルーツは一体どこにあるのでしょう?

ハムやソーセージなど、豚肉の熟成加工は主にヨーロッパで昔から盛んに行われていましたが、牛肉の熟成加工は主にニューヨークなど北米で発展した伝統であり、近年の熟成肉ブームの源泉はここにあります。

フランスやイタリアで行われていた、枝肉や塊肉を長時間乾燥した状態で熟成させる「ヨーロピアンスタイル」と呼ばれる熟成加工技術をアレンジしたものが「NYスタイル」で、現在研究が進められ、議論が繰り広げられているのが、NYスタイルの熟成加工技術です。
NYスタイルの熟成加工は肉を乾燥、熟成させるだけではなく、特定の状況下に食肉を置き、カビ付きチーズのように微生物を食肉の表面に付着させて熟成を進める技術です。
その微生物の働きによってプロテアーゼを活性化することによって、ヨーロピアンスタイルの熟成加工よりも迫力のある強い旨みと芳醇な香りが引き出され、肉の柔らかさも増幅されるのが特徴です。

先程記したパンチェッタのように、自宅で食肉の熟成を行うことも用いる食肉の種類によっては可能ですが、牛肉の熟成は大きな塊肉を0~4℃程の一定の温度の中で、80%の湿度を保ち、更に常に強い風を長期間当てなければならないことや、微生物を適切に繁殖させる難しさなどから、家庭における牛肉の本格的な熟成は困難であるとされています。

プロの技術や専門知識、プロならではの設備あってこその、奥深い牛肉の熟成加工技術。そういった家庭などで簡単に真似のできない、ストイックな技術であることを鑑みると、プロたちの間で技術の研究が日夜行われ、熱い議論が交わされ続けていることにも頷けますね。

プロテアーゼの力で旨み&柔らかさアップ!熟成のメカニズム

それでは、食肉の熟成が進むメカニズムや、熟成の意義について迫っていきましょう。

冒頭でもお話したように、食肉の熟成に深く関与しているのは熟成によって活性化するプロテアーゼと呼ばれる酵素、筋肉の細胞に存在する、たんぱく質分解酵素です。

このプロテアーゼは、熟成をしていない食肉の場合は活性が弱く、肉の味や食感に大きな影響を与えることはありませんが、熟成によって活性化が促され、旨みを生み出したり、肉の食感を柔らかく変化させたりします。
熟成による旨みは、プロテアーゼがたんぱく質を分解することによって産生される旨味成分であるアミノ酸によるもので、食感の柔らかさは肉の繊維を構成するたんぱく質を、プロテアーゼが分解することによって生じています。

熟成肉ブーム到来前の食肉の調理文化は、元より旨みがあり、柔らかい肉を加工する、固い肉を長時間煮込んで柔らかくする、肉を果汁などに漬け込んで柔らかくする、などの一辺倒であったと言えます。

そんな調理文化へ、肉に宿っている自然の酵素を活かして肉の旨みと柔らかさを増幅させることができる、革新的な技術として一石を投じた存在が熟成加工という技術だったのです。

家庭でもプロテアーゼを活性化できる?準熟成加工のすすめ

熟成肉の意義は肉の旨みと柔らかさを増幅させることにあります。
しかし、そういった技術を家庭で実践してみたくても、本格的な熟成、特に牛肉の熟成加工を家庭で行うのは、前述の通り困難であると言えます。

ただ、長期間でなくとも1日や2日でも寝かせれば、熟成が甘くても、味や食感に多かれ少なかれ変化を与えるのは間違いありません。

家庭で熟成加工に準ずる加工を牛肉に施す場合は、煮込み料理などに用いる牛肉に3%程度の多めの塩を揉み込み3日程冷蔵保存し、肉から染み出たドリップ(肉の細胞が保持していた水分)を拭き取って料理へ用いるのが有効です。

この手法は本格的な熟成とはまったく異なった簡易的な手法ではありますが、熟成加工と同様にプロテアーゼの活性を促し、旨み、食感の柔らかさを増幅させるメカニズムを応用したものです。

家庭で熟成肉の加工を体験してみたい、という方は上記の加工法を活用してみるのもオススメです。

準熟成加工の課題・衛生面について

前の項目で、家庭でも行える食肉の熟成加工に準ずる加工法を紹介しましたが、食肉の加工には衛生面への配慮が付きものであり、実践する際、熟成肉について考察をする場合はそれを忘れてはいけません。

本記事中に記したパンチェッタや、牛肉の準熟成加工には、プロが行う本格的な微生物などを活用した熟成加工とは異なり、多めの塩を用いて塩蔵技術も併用しています。
このような塩蔵技術を併用した、家庭でも行える食肉の準熟成加工は、理論上は雑菌の繁殖も抑えられ、本格的な熟成と同様にプロテアーゼの活性を促すことも可能とされていますが、プロの監修の下でない分、実行は完全に自己責任です。

もしも、家庭で熟成加工を実践する場合は、用いる食肉の鮮度や食塩の分量、保存期間などに配慮して、衛生面に細心の注意を払いましょう。

熟成を知って、お肉料理をもっと楽しもう!

食肉の熟成は、実践する意義や、プロテアーゼによる熟成の化学的なメカニズム共々非常に革新的であり、奥の深い加工技術であると言えます。

まだまだ伸びしろが多く、目覚ましい進化を遂げることが予測される、食肉の熟成加工。
その様がどのように発展し、ブームが進んでいくのか、今後とも是非注目していきたい食品加工技術のうちの1つですね。

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