どうしてアメリカのfdaはトランス脂肪酸を禁止にしたの?

2018年6月より、アメリカではトランス脂肪酸の食品への添加を原則全面禁止にしました。

これは2015年6月にアメリカの食品医薬品庁であるfda(=Food and Drug Administration)が発表した水素添加由来のトランス脂肪酸の使用規制に基づいています。

今回は、なぜアメリカではトランス脂肪酸が問題となっているのか、fdaは禁止に向けてどう動いたのか、などについてお話しいたしましょう。

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アメリカのfdaが規制するトランス脂肪酸とはいったい何?

トランス脂肪酸は食品添加物と間違えられることが多いのですが、油脂やコレステロールと同じ脂質の一種です。

脂質は適量であれば活動のエネルギー源となりますが、摂りすぎると肥満を招き、生活習慣病につながる恐れがあるため、摂取量に注意しなくてはなりません。

特にトランス脂肪酸は、悪玉コレステロールを増やして善玉コレステロールを減らし、致命的な心臓疾患を招く原因となっています。

そのため摂取が規制されているのです。

トランス脂肪酸は工業生産された油脂食品、及びそれを使用した加工食品に多く含まれています。

植物油や魚油を固形化、あるいは半固形化させるために「水素添加」されるとトランス脂肪酸が生成されます。

こうした水素添加で出来た代表的な製品がマーガリン、ショートニング、ファットスプレッドです。

また、これらを使用した加工食品にはケーキやドーナツなどのお菓子類、ポップコーンなどのスナック菓子、フライドチキンなどの揚げ物類があり、トランス脂肪酸が多く含まれています。

アメリカではこうした脂っこいものや甘いものを好んで食べる人が多く、病死原因の第1位が心臓疾患であることから、fdaはトランス脂肪酸の規制に乗り出したのです。

fdaによるアメリカでのトランス脂肪酸含有量の表示義務付け

fdaは唐突にトランス脂肪酸を禁止したわけではありません。

まず、トランス脂肪酸の存在を知ってもらおうと、2006年より加工食品におけるトランス脂肪酸含有量の表示を義務付けました。

すでに肥満が社会問題化していたアメリカでは、1990年代より総脂質、飽和脂肪酸、コレステロールの含有量の表示が義務化されていましたが、トランス脂肪酸も加わったのです。

しかし、表示の義務付けといってもルールが甘く、1人前当たりの含有量が0.5g未満であれば0gと表示できるため、矛盾が指摘されています。

それでもfdaは義務化にあたり、アメリカ人の食生活に対しアドバイスを行っています。

その主な内容は以下の通りです。

・食品は栄養表示をよく見て、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロールの少ないものを選びましょう。
・固形のショートニングやハードタイプのマーガリン、バターよりも、植物油やソフトタイプのマーガリンを選びましょう。
・魚を食べましょう。体によいオメガ3脂肪酸が入っています。
・鶏肉や豚・牛肉の赤身といった脂の少ない肉を選びましょう。
・脂質は1gあたり9kcalと高いですが、炭水化物やタンパク質は1gあたり4kcalしかありません。
・油はオリーブ油、菜種油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油に替えましょう。

このような注意喚起をしない限り、アメリカでは過剰に脂質が摂られていました。

しかし、こうした措置が奏功し、約10年間でトランス脂肪酸の摂取は70%以上も削減したのです。

アメリカのfdaはトランス脂肪酸すべてを禁止にしたわけじゃない!

アメリカでのトランス脂肪酸禁止を受けて、日本でも全面禁止が叫ばれていますが、そもそもfdaはトランス脂肪酸のすべてを禁止にしたわけではありません。

水素添加由来のものについてのみ、規制しているのです。

トランス脂肪酸には次の3つのタイプがあります。

①牛肉や羊肉、乳性に含まれている天然のトランス脂肪酸
②水素添加で生成される人工的なトランス脂肪酸
③植物油や魚油を高熱脱臭精製する過程で生じる人工的なトランス脂肪酸

①と③はごく微量でしかないため問題とはならず、fdaが規制をしているのは②だけです。

アメリカにはGRAS(=Generally Recognized As Safe)といって、食品添加物の規制に関する制度があります。

一般的にGRASにあるものは、食品として安全と認められた物質です。

今回、部分水素添加油脂が安全であるとはいえないとみなされ、GRASから外されました。

そのため、2015年6月にfdaは部分水素添加油脂の食品への使用を、2018年6月から禁止することにしました。

トランス脂肪酸自体を禁止にするではなく、トランス脂肪酸を含んでいる「部分水素添加油脂」を禁じたのです。

fdaがトランス脂肪酸規制に踏み切ったアメリカの事情

もともと脂っこいものや甘いものが好きな人が多いアメリカでは、肥満からくる生活習慣病による動脈硬化が問題となっていました。

血流が止まることによって起こる冠動脈疾患が、死因の第1位である心臓疾患のうちの実に6割以上を占めていたのです。

これには学術論文のいくつかが、トランス脂肪酸の摂取量と悪玉コレステロールの増加が比例関係にあること。
また、トランス脂肪酸の摂取が冠動脈疾患のリスクを上げていることを示し、裏付けとなりました。

トランス脂肪酸の摂取が少なければ悪玉コレステロールや冠動脈疾患とは関係ないとする意見もありましたが、学術論文として発表されてはおらず、「低摂取量だから安全とはいえない」とされました。

複数の論文でトランス脂肪酸の摂取と冠動脈疾患リスクの関係が指摘されていること。

また、全エネルギー量の0.4%~2.8%のトランス脂肪酸摂取量で悪玉コレステロールの増加と比例関係を持っていることから、fdaは量に関わらず水素添加由来のトランス脂肪酸摂取を規制する方向へと向かったのです。

この移行に関して代替技術の開発コストを割り引いて考えても、トランス脂肪酸規制における冠動脈疾患の低減は、約1300億ドルもの利益をもたらすことがわかりました。

栄養の偏りが社会の奥深くにまで浸透していたアメリカでは、利益が大きいとみて、ついに実行へと移ったのです。

アメリカでのトランス脂肪酸禁止を受けた日本の反応は?

fdaがアメリカにおけるトランス脂肪酸の禁止を2015年に発表したことを受け、日本は本国アメリカよりも大騒ぎとなりました。

その理由は二つあります。

一つは、アメリカではすでにトランス脂肪酸含有量の表示が義務付けられていたり、食生活に関するアドバイスが発表されていたりと、段階を踏んで規制が設けられていたため、国民の反応が冷静だったこと。

もう一つは、日本での報道の仕方が誇張に満ちていたことがあります。

ほとんどが水素添加由来とせず、あたかも全トランス脂肪酸の使用禁止であるかのように伝えたこと。

そして、トランス脂肪酸を石油由来の食品添加物と解説し、マーガリンに大量に添加されているなどと誤った情報を流す機関もあったことです。

その結果、多くの消費者はパニックに陥り、マーガリン製造メーカーには1日に100件以上の苦情電話が寄せられるようになりました。

こうした反応の背景には、アメリカと日本の国民性の違いもあるでしょう。

細かい栄養などもともとあまり気にしないアメリカ人と、わずかな異常や差異も気にする日本人。

特に口から入るものだけに、より神経質に反応してしまったようです。

間をおかず、食品安全委員会と農水省が公式見解を発表しました。

アメリカよりトランス脂肪酸摂取がはるかに少ない日本は安心して大丈夫

WHO(世界保健機関)では、トランス脂肪酸摂取量を全エネルギーの1%未満にするよう提示しています。

アメリカはこの目標値を大幅に超えており、ドイツや日本は目標値内に収まっています。

そのため内閣府食品安全委員会では、大多数の国民がWHOの目標を下回っているとしたうえで、「脂質に偏った食事をしている人は留意する必要があるが、通常の食生活では健康への影響は小さい」という見解を発表しました。

問題となっていたマーガリンについても、銘柄にもよりますが、2010年のものは2006年のものよりトランス脂肪酸が減少しており、低減に向けた取り組みが行われているとしました。

もとより、メーカーはマスコミ発表よりも以前からトランス脂肪酸削減に向けて独自の努力を続けてきました。

そのため現在発売されているマーガリンはほとんど、トランス脂肪酸がごくわずかしか含まれていません。

必要以上にトランス脂肪酸にこだわるより、脂質全体の摂取量に配慮し、バランスの良い食事を摂ることが大切なのです。

農林水産省でも日本人の平均トランス脂肪酸摂取量は全エネルギーの約0.3%と、WHOの目標値をすでに下回っているため、健康への影響は小さいと発表しています。

そのうえで、fdaがアメリカ人のトランス脂肪酸の摂りすぎに言及したように、農水省は脂質そのものや塩分を控えることが日本人の健康にとって望ましいと述べています。

偏りなくバランスのとれた健康的な食生活こそ、最も大切なのですね。

アメリカと日本は事情が違うためトランス脂肪酸だけに振り回されないで!

いかがでしたでしょうか。

アメリカと日本ではかなり事情が異なるため、同じような措置を取っても意味をなさないばかりか、かえって悪影響になることがお分かりいただけたかと思います。

食文化や健康に対する関心の高さも、日本とアメリカとでは異なります。

脂質全体や塩分の摂りすぎに注意して、栄養バランスの良い食事を続けていれば、生活習慣病を十分予防できます。

偏りのない健康的な食生活を目指しましょう。