醤油容器の変遷、陶器からガラスヘ、瓶からプラスチックへ

醤油は食卓に欠かせない存在です。

最近は調味料の地位を、日本のみならず世界でも確立しています。

買ってきた醤油は、瓶からしょうゆ差しなどに移し、テーブルの一画に置かれるのが一般的でしょう。

醤油が卓上瓶で売られる昨今ですが、昔はどのような容器で取り扱っていたのでしょうか。

容器の変遷を見ていきましょう。

鎌倉・室町時代の醤油容器

醤油の伝統的な製法は、木樽を使って行います。

当時、プラスチックやガラス、金属はまだありませんでした。

ですので、手に入りやすい木材を材料にすることは簡単に想像できますね。

溜まり醤油が流通し始めたのは、鎌倉時代でした。

容器は、現代のような瓶ではなく、陶器で作られた壷や甕(かめ)が使われていました。

容器を持参し、お店で注いで持ち帰る流通方式が長く続きました。

これは物々交換時代の影響でもあります。

時間の経過と共に流通の仕方は変化していきます。

商人が営業用に竹筒や貸し壷を用い始めたのです。

さらに室町時代になると木樽が主流となりました。

今となっては時代劇やテレビでしか見られませんね。

現代では木樽に醤油を充填して販売する蔵は、殆ど見られなくなりました。

ある酒樽屋が40年振りに醤油樽を作った、として話題になるほど、希少な物となっています。

醤油を美味しく頂くには、作り立ての新鮮なうちに消費することです。

消費者の元に届くまで高品質を維持するためには、容器の改良が避けられません。

そのため、醤油樽は姿を消していったのです。

醤油容器の多様化、瓶が登場し始めた江戸時代

醤油にとって、江戸時代は大変革期でした。

紀伊の湯浅で生まれた醤油とその製造ノウハウは、貿易の発達により関東に持ち込まれました。

特に銚子や野田は醤油作りのメッカとして発達し、関東醤油の歴史を築き上げる礎となったのです。

醤油の流通が高まり、一般家庭に欠かせない存在として地位を確立したのもこの頃でした。

醤油の種類が多様化するなか、容器も多様化していきます。

貿易には縛樽(しばりだる)が使われ、陶磁器製の徳利や瓶の容器が生まれました。

また手桶もこの時代に生まれ、商人達の商売道具として生活を支えていたのです。

最近は、とっくりやどぶろくの流通量はすっかり少なくなりました。

しかし、醤油のみならず酒の容器として現代でも生き続けています。

時代劇では、旅人が薬草や調味料の容器として使用するシーンがあります。

これらの容器は、日本人の生活文化にも多大な影響を及ぼしているのです。

昭和は木樽と瓶の逆転時期

醤油の容器は明治・大正時代まで、江戸時代と変わらず使われていました。

しかし大正時代後半、ガラス瓶が登場したのです。

ガラス瓶は、明治の頃にヨーロッパから輸入されたビール瓶が原点とも言われています。

ガラス瓶の流通が大正時代から始まったのは、この頃に自動生産機の技術が確立されたためです。

さらに、輸出用の容器として缶が表れ、大正9年頃には1ガロン缶が輸出されていました。

缶の定着には時間を要しましたが、瓶は凄まじい早さで市場に浸透していきました。

昭和10年頃には木樽と同じくらいの流通量になります。

そして昭和40年頃には、木樽は姿を消す事になったのです。

この頃は木樽・ガラス瓶・缶が醤油容器として主流でした。

しかし、木樽に変わる新たな素材が生まれようとしていました。

それは、塩化ビニールなど用いたプラスチック製の容器です。

昭和40年代は、核家族化が台頭を始めた頃でした。

また第二次世界大戦後とあって、資源を大切にする思考が国民に根付いていました。

ゆえに使い捨て方式が見直される時期でもあったのです。

醤油を始め飲料水の容器が、ペットボトルなどプラスチック製になった要因はここにあるのです。

以降、プラスチック容器は改良が重ねられ、醤油に特化した容器が発明され続けています。

卓上瓶の登場

昭和20年代には、日本の家庭に無くてはならない物が誕生しています。

それは、卓上瓶です。

しかも移し替え式ではありません。

瓶のまますぐに使える様式で、キッコーマンから発売されました。

前述のような、資源を大切にする意向もありましたが、液垂れもまた問題でした。

江戸時代後期には、現在の卓上便のような外観をしたしょうゆ差しが存在していました。

当時から、醤油瓶からしょうゆ差しに醤油を移し替えて使うのが主流だったのです。

しかし、醤油さしには受け皿を添えるのが当たり前だったそうです。

江戸時代から液垂れ問題は蔓延していたのです。

これに問題提起と改善を試みたのがキッコーマンでした。

まずは移し替える必要が無いよう、卓上瓶として商品化をしました。

発売当社は瓶の形状は六角形でした。

ですが、時代を重ねるごとに試行錯誤が施されます。

液垂れせず、かさばらないスマートな形状の卓上瓶に進化していったのです。

最新の醤油容器

醤油の容器の歴史を振り返ると、実に多くの容器が存在していた事が分かります。

陶器に始まり、木桶、瓶、ガラス製しょうゆ差しなど、その時代の世相を表しています。

中でも、大ヒット商品となった醤油の容器があります。

それが現代の、酸化防止型容器(密封ボトル)です。

醤油の味を劣化させる一番の原因は、酸化です。

醤油を移し替えたり、しょうゆ差しに入れておくと、空気に触れる部分が出てきます。

時間が経過するごとに酸化し、味が劣化します。

この容器が登場する前の、醤油の鮮度維持期間は、大半が1ヶ月でした。

2009年、これを解決した容器がヤマサ醤油から発売されました。

「ヤマサ鮮度の一滴」の鮮度維持は120日を越え、味の違いも明白でした。

半年で100万本以上の出荷を記録、ベストセラーとなったのです。

これが各醤油メーカーの開発陣に火をつけました。

2012年、キッコーマンが発売した「やわらか密封ボトル」を採用した醤油は人気を博しました。

従来の卓上瓶のようなフォルムは、使いやすさも高評価されました。

無論、味も折り紙付きで、今なお消費者に愛用され続けています。

容器の特性

さて、ここまで述べてきた容器の特徴について見ていきましょう。

缶は表面塗装のし易さや対衝撃性などに優れていたため、貿易・輸出用として採用されました。

ガラス瓶は空気を一切遮断するため、作り立ての品質を維持出来るメリットがあります。

ただ、重く、割れると取り返しがつかない面も持ち合わせています。

ペットボトル容器は、再利用し易さに富んでいて、当時の社会的需要を満たしていました。

ただ、ペットボトルは酸素を通過させてしまう特性を持っていました。

そのためガラス瓶よりも味の劣化が早まるデメリットも持ち合わせていたのです。

そこで登場したのが、密封ボトルです。

これは先述の通り、醤油を空気に触れさせない構造が特徴です。

再利用のし易さも申し分無いため、現在の主流となっています。

醤油の容器は世相の表れ

醤油容器の変遷について注目してきました。

始まりは陶磁器ですが、どの時代の容器もその時代のトレンドに合わせて作られています。

江戸時代以降は商用目的を第一とした縛樽や缶が繁栄し、現在は味を重視した密閉ボトルが主流です。

醤油の容器はその時代の流れを表しているのです。