いつの時代でも、おいしい食材は人々を魅了してきました。
そして、食べ物の良さを存分に引き出す調味料も同じです。
日本人に最も親しまれている醤油は、多様な姿と共に私たちの食卓にあります。
そんな醤油の数々を見ていきましょう。
消費者数No.1の濃口醤油
日本の醤油文化の原点は、濃口醤油です。
醤油の歴史は深く、さかのぼる事1500年以上前と伝えられています。
もっぱら醤油が完成したのは江戸時代で、その頃から産業の一つとして、醤油がその地位を確立していきました。
古くは和歌山の湯浅周辺で活発に製造されていましたが、関東地方にもその製造方法が伝わりました。
原材料である麦や大豆、塩の生産が盛んな環境も相俟って、特に上総・下総地区で醤油の生産が盛んになったのです。
同時に、西日本産の醤油と差を付けるべく味の改良にこだわり、地域の特色がついていきました。
現在、濃口醤油は全国で生産され、その出荷量は2015年時点で655,259kℓで、醤油全体の84%を占めています。
特に全国生産量第一は千葉県で、古来から醤油に親しんできた野田や銚子が今も尚、その伝統を守っていることが要因です。
そんな濃口醤油で特に人気の銘柄が、香川県小豆島にある丸島醤油株式会社の「丸島醤油」です。
小豆島も千葉同様に、醤油で有名な地です。
この醤油の特徴は、原材料がシンプルに大豆・小麦・塩という点でしょう。
見た目のわりにサラサラしていて、おいしいと評判です。
おいしい食材で溢れる西の食文化は淡口醤油にあり
兵庫県たつの市の龍野醤油は「淡口醤油」発祥の地です。
時は1670年寛文の時代、ひょんな事から、醤油作りの際、もろみに甘酒を加えた事がきっかけでした。
搾った液は淡く透き通り、香り高く美味しいと評判になり、これが淡口醤油の起源と言われています。
その後、醤油に使われる塩の生産が、関東から関西の赤穂を中心となり、龍野の醤油製造業を一気に飛躍させました。
現在、龍野市は全国第3位の醤油生産高を誇っています。
さて淡口醤油が醤油全体に占める生産高の割合は、2015年時点で12.5%、量にして97,056kℓです。
淡口の関西、濃口の関東と言われる通り、使用されるお店の数や流通量はやはり関西が多いです。
もっとも、薄口なので主張しすぎず食材を活かせる調味料なので、炊き込みご飯や煮物などに最適でしょう。
どれを食べてもおいしいと、世界的に評価される理由が垣間見えますね。
濃口と淡口の両方を揃えている家庭も、地域問わず多いようです。
「丸島醤油」は淡口醤油においても根強い人気を誇っています。
ただお勧めしたいのは老舗、龍野に蔵を構えるヒガシマル醤油の「龍野乃刻(たつののひととき)」でしょう。
毎年本数限定で販売され、売り切れ必至の一品です。
たまり醤油は醤油の起源
そもそも醤油は、味噌作りの最中に偶然見つかった物です。
鎌倉時代、信州の禅僧の覚心が、紀州の湯浅の村が味噌作りに適している環境である事を見抜き、村民に味噌作りを教えていました。
ある日村民は、樽で味噌を発酵させた際、底に残った汁を食べてみたらおいしい事に気付いたのです。
これを期に、底にたまった汁、溜まり醤油の製造が始まったとされています。
日本の醤油文化は、この湯浅を起点に全国へと広がりました。
現在、溜まり醤油は、紀州以外にも周辺の愛知・三重・岐阜などを中心に製造されています。
2015年時点の生産高は15,227kℓ、醤油全体の2.0%となっています。
日東醸造株式会社は、大正初期の創業で「足助仕込み三河しろたまり」が有名です。
愛知は味噌カツや味噌煮込みうどんなど味噌を使った郷土料理が豊富であり、付随してたまり醤油の生産も盛んなのです。
そしてたまり醤油発祥の地、湯浅の湯浅醤油蔵元小原久吉の「湯浅醤油たまり」も名品です。
300年受け継がれる伝統製法、さいしこみ醤油
さいしこみ醤油とは、仕込み用の食塩に変わり、なま醤油を使って再度発酵させた醤油のことです。
故に、使用原料も期間も普通の醤油作りの2倍必要です。
一般的に濃口醤油の製造年月は約1年なので、さいしこみ醤油は2年かかることになります。
発祥の地は山口県柳井市で、1730年頃に高田家の4代目、高田伝兵衛によって考案されました。
日々味に磨きを重ね、寛政の頃、岩国藩主吉川公に献納。
吉川公がその香りと味を賞味されて「甘露」と揶揄された事から、再仕込み醤油は甘露醤油と呼ばれるようになりました。
全国に蔵は点在しますが、山口を中心に近隣の広島や島根で製造が行われています。
しかし、手間がかかることもあり2015年の生産高は7,704kℓ、醤油全体の割合にして0.9%となっています。
ですが、寿司や刺身など日本の伝統的な食べ物に用いれているとあって、その役目は重要です。
創業者の高田家は現在、直接、醤油の製造には関わっていません。
ですが地元の柳井醤油、重枝醤油、佐川醤油の株主や、親類縁者として何らかの関わりを持ち、おいしい甘露醤油の伝統を受け継いでいます。
これら酒蔵で取り扱う醤油は、まさに伝統の一品と言えるでしょう。
しろ醤油は上品なおいしい料理に使われる
しろ醤油が生まれたのは、愛知県碧南市です。
江戸時代後期になめ味噌の一つである、金山寺味噌の上汁が淡くおいしいことに気付き、調味料として用いられ始めたのが原点と言われています。
現在のしろ醤油作りは、原料が殆ど小麦で、大豆との割合は9:1という珍しいものです。
作り方も独特で、大豆を炒って小麦を蒸し、もろみは撹拌せずに、樽の底に溜まったしろ醤油を生引きし、残りのもろみを圧搾します。
この工程は3ヶ月程度で、濃口等の半分以下の長さです。
外観はお酢のように白く淡く、香りづけに最適で、料亭のお吸い物や茶碗蒸しには欠かせない存在です。
また酸化の速度が速いため、3ヶ月以上経つと変色が始まるので、早めに消費する必要があります。
2015年の生産高は5,165kℓ、醤油全体の割合にして0.6%と醤油の中では最も少ないです。
溜まり醤油でも登場した日東醸造は、しろ醤油でも有名で、特に地元地域を中心に愛用されています。
最もおいしい醤油は故郷にあり?
ここまで醤油の種類別に、歴史とおいしい一品をご紹介してきました。
通販サイトで人気の商品、多くの人がおいしいと感じる醤油の数々です。
しかしながら、この記事をご覧の方、個々が気に入る物がこの中にあるとは言い切れないでしょう。
誰しもがおいしい、落ち着くと感じるのは昔から慣れ親しんだ味です。
これは醤油に限った話しでは無いでしょう。
自家製のおはぎなど、我が家に昔から伝わるレシピに沿って守られてきた一品こそ、おいしいのではないでしょうか。
日本の気候は世界的に見ても、食文化を発達させる為に必要な条件が揃っています。
水の質や農作物が育ちやすい環境など、その微妙な違いが、醤油と言えど豊富なバリエーションを生む要因なのです。
地元で作られた、もしくは使い続けている醤油の美味しさを、今一度振り返ってみると良いでしょう。
醤油の種類は日本の食文化を示している
これほど多くの醤油が生まれ、現在も伝えられている背景として、その食に最適な調味料を使い、おいしく頂くという日本人の精神が垣間みれます。
刺身なら再仕込み醤油、お吸い物ならしろ醤油など、素材の良さを引き出す工夫を惜しまない姿勢が、醤油と食文化を発展させてきたと言えるでしょう。