醤油は古くから日本の食卓に欠かせない存在です。
美味しく製造するには、原材料はもちろん、製造中の環境管理が特に重要です。
中でも手間が掛かり、味や見た目の確立に影響する「ろ過」を中心に詳しく見ていきましょう。
醤油の製造工程
醤油の原材料は、主に大豆と小麦です。
蒸した大豆と、砕いて挽いた小麦を混ぜ合わせます。
次に、麹を作るべく、混ぜた物に種麹を加えます。
種麹を加えることで酵素が生成されますが、酵素は醤油の旨味を引き立たせる役割があります。
並行して食塩水を作ります。
これはシンプルに食塩を水に溶かし込みますが、味付けを決める重要な工程です。
食塩量は、醤油の色の濃さに影響します。
濃口醤油ほど食塩量が少なく、淡口醤油ほど食塩量が多いのです。
つまり、色が薄くなるほど食塩が多く使われているのです。
この食塩水に麹をを加え、諸味を作っていきます。
昔からの伝統的な作り方は、木桶の中で諸味を熟成させます。
しかし、昨今の大量生産時代ではタンクの使用が主流です。
熟成期間は3ヶ月~2年と千差万別です。
日本国内で最も流通している濃口醤油も、半年前後の期間、熟成させているのです。
熟成した諸味は圧搾(ろ過)工程へ向かいます。
まず圧搾して、諸味から醤油を搾り出します。
醤油にはまだ沈殿物など粕が含まれているので、これらを液体と分離させます。
この工程は、のちに熱消毒をしやすくする目的もあり、この消毒を火入れといいます。
火入れが終わると、商品化に向けてもう一度ろ過が行われ、清澄度を引き上げます。
その後、出荷検査が行われるのです。
検査を通過したらパッキングされ、ようやく醤油が完成するのです。
ろ過工程をクローズアップ
ろ過工程を詳しく見ていきましょう。
先述の通り、ろ過は最大3回行われます。
一度目のろ過では、醤油の原液を搾り出していきます。
現在、大手メーカーでは、布にもろみを敷き詰め、それをプレス機にかけます。
プレス機で諸味に圧力をかけ、時間をかけて搾り出します。
搾り出された醤油は「生醤油」と呼ばれます。
こちらには、搾りかすなどが含まれています。
ですので、3~4日ほどタンクで寝かせ、沈殿物と醤油を分離させます。
ろ過された醤油は、消毒のため火入れされます。
熱消毒が終わったら、さらに清澄度を上げ、商品化出来る状態まで、ろ過を行います。
熱を加えると、ろ過が進みやすいので、ろ過機は低温で使用します。
こうしてろ過された醤油は完成検査に向かうのです。
微生物や雑菌、放射能など健康被害を与える物質の混入を、厳格に検査します。
基準を満たせば容器に詰められ、ラッピングをして商品化となります。
もちろん、容器の衛生検査も厳格に実施されていますよ。
現代のろ過技術
現在、圧搾と火入れ後のろ過は、機械で行うのが主流です。
先ほどお伝えした通り、圧搾を手作業で行うと大変な作業が必要です。
熟成中の温度や、室内環境管理の手間も同様ですね。
そのため、ほとんどのメーカー・製造所では圧搾を機械で行うのです。
圧搾機は大きい物ですと、全長約10mを越えるものもあります。
全自動、半自動運転式など、自宅でオーブントースターを扱うくらい簡単に使用出来るのが特徴です。
密閉空間なので酸化を防ぎ、味の劣化を防げます。
また、何といっても一度に大量の醤油をろ過出来るのがメリットでしょう。
火入れ後のろ過を行う機械は、圧搾時よりも細かい設定が可能です。
ろ過具合の調節が可能で、醤油のみならず、様々な粘性を持つ液体に対応しています。
大型の機械では1回のろ過で30,000リットルもの処理が可能です。
手間のかかる作業は、自動化・機械化されるのはどの世界でも共通かもしれませんね。
古来の醤油の製法とは
古来の製法における工程中のろ過回数は、圧搾のみでした。
このことから、品質管理を現代のように、検査機関など通していないことは、想像できますね。
圧搾方法は、まず布を敷き、発酵し熟成させた諸味を少しずつ広げ、自重でろ過します。
非常に手間と時間がかかる作業です。
わずかですが、昔ながらの製法を取り入れている蔵も存在します。
とくに、木樽で製造する蔵は、醤油製造所・メーカー全体の1%にも満たないと報告されています。
科学技術の発達で、機械式でも美味しい醤油が作れるようになりました。
ですが、とくに日本人の舌を唸らせる醤油は、まだまだ手造りの物が好まれています。
これは、旨味を判断する身体のセンサーが、機械を遥かに上回っているためです。
現代よりも、一昔前の日本人のほうが、美味しい醤油を楽しんでいたかもしれませんね。
余談ですが、醤油は偶然の産物といわれています。
醤油の源となったのは醤です。
醤作りの最中、試しに上澄み液(現代の溜まり醤油)を食べ物に付けたら美味しいと評判になりました。
このことがきっかけとなり、醤油作りに繋がったとされています。
生醤油の場合
いくどか登場した生醤油ですが、こちらは現存する最も古来の醤油といえるでしょう。
また、醤油の製造工程は、作業の機械化や材料の変化はありますが、昔から変わらない歴史的遺産です。
生醤油は、いうなれば湧き水のような存在です。
飲み水は川や採水地から汲み上げられた後、飲料用としてろ過、消毒がなされます。
ですが、山の天然水の美味しさに、魅了されたご経験はありませんか?
自然な状態の素材は、人の心を満足させる物です。
生醤油は、諸味をろ過した後は火入れをしません。
清澄度を上げ、衛生検査をすると、そのまま商品化されます。
絞り立てのお酒や牛乳は、鮮度が高く美味しいものです。
同じ理屈で考えれば、生醤油も新鮮なものほど美味しいことでしょう。
現在、生醤油を求めて購入する消費者は少ないですが、これを期に試してみるのも良いでしょう。
火入れはろ過と同じくらい重要
ここまでろ過工程にフォーカスしてきましたが、火入れも醤油の品質、とくに色付きに影響します。
というのも、醤油の色は火入れによって約50%が決まるのです。
影響する要因は、温度変化です。
温度が変化に付随して色が変わっていきます。
タンクを用いて火入れすると容量が多く、熱が抜けにくいため温度下降がなだらかです。
機械的に行えれば楽ですが、手作業となると室内環境の管理までシビアに行う必要があります。
醤油作りに関わらず、農業や食べ物作りの大変さがこの事例から垣間見えますね。
検査前の、清澄度を上げるためのろ過が低温で実施されているのは、色味のバランスを維持する狙いが伺えます。
改めて火入れの重要性に気付かされます。
醤油は火入れ中に熱の調整など通じ、味のコントロールを効かせられます。
しかし、生醤油の場合は火入れ工程がありません。
つまり、品質は火入れ前の工程が重要であることを意味しているのです
熟成中の温度や菌の環境管理、ろ過や清澄具合がそのまま品質に反映されています。
完成度の高い醤油は全てのバランスが取れている
醤油製造の流れ、とくにろ過を中心にご紹介しました。
美味しい醤油は、素材や製造環境、製造工程や厳格な管理システムなど、全てが上手に噛み合なければ出来ません。
現代でこそ機械化されていますが、これを全て感覚で作り上げてきた先人達には、頭が下がるものです。